ある上司

その人は、驚くほど、感情の気といったものを発しない。
感情を表に出さない、という感じではない。
むしろその正反対に見える。
怒るときは激しく怒る。笑うときは豪快に笑う。
けれど、悲しんだり、喜んだりは、あまり表に出さない。
怒るとか、笑うは、乾いたもの、なのかもしれない。
悲しんだり喜んだりは、湿ったものかもしれない。
それが、この人から感じる感情の気のなさに、関係あるかもしれない。
この人はもしかしたら、人のことに全然興味がないのかもしれないし、
ものすごく興味を持っているのかもしれない。
この人は好き嫌いが激しいようでいて、とてもさっぱりとしている。
この人は、透明で刃のような鋭さも持った、定規を思わせる。
けれども、この人は、目を腫らして部屋に戻ってきたりもするのだ。