風を送る

 辞めていく人に言える言葉を、僕は持っていない。暗い感じでも、悲しい感じでもない辞め方だ。でも、明るいとも言えない。彼を批判することには意味がないし、かといって手放しで賛成も出来ない。出来るだけそっと離れていくこと、お互いに次のことに集中できるような流れにすること、それを望んで行動するのが、一番いい、と今は思う。辞めていく人を見送るのは、むずかしい。そんなとき、言葉の力でどうにか、というのは、少なくとも僕には、今の所無理だ。一緒にいる人に、少しだけ風を送るようなことしか、僕の言葉は出来ない。こんなときに感情は無力だから、自分の仕事を出来るだけより良く果たし、周りの張り詰めた空気を少しやわらげたい。そうしたら、その空気が、彼の顔に涼しく吹いたり、彼の背中を少し押す、ということも起こるかもしれない。