そんなうさぎないよー

街角で女子高生が、自由の眼鏡、と言い、すぐに、自由の女神、といいなおしていた。そんなうさぎないよー、そんなうさぎないよー、と父娘が楽しそうに歌っている声が聞こえてきた。自転車に乗っている女性の被っている白い帽子が風でとれて、後ろの荷台に落ちて、最初からそこにあるようになった。帰りの電車の中、前の座席に座っている男性の足下に、缶コーヒーの空き缶が転がっていた。こっちにきたり、あっちに戻ったり。電車から降りるとき、あれを拾って颯爽と下りよう、と決めて、最寄の駅までうとうとしていた。駅に着いて、目を開けて缶を見ると、あちらの方へ転がっていき、前の男性の座席の奥で、ぴたっと止まった。駅から出て、すぐのところで少年が母に、「東日本の匂いがする」と言った。