一房の葡萄

 落語を生で聴いたのは、初めてだった。ふだん、あんまり人と話をしていないせいか、はなしを聴きながら、イメージするだけでも、頭がふらふらとした。何かを言おうとする顔だけでも、笑いが起きる人もいた。最初は体のかたさがとれず、声を出して笑うこともできなかった。最後のほうは、自然と声が出ることもあった。僕はまだ大事なことがわかっていない、という気がしたが、すごくゆっくりではあるけれど、理解していってる。


ずっと、本を売ることができなかったけど、少しずつ売れるようになってきた。一気には売れないけれど、本当に置いておきたいもの以外は全部売ってしまいたい。


間違って売ってしまいそうになった文庫本一冊を持って帰る電車の途中、読んでいた。紙は黄色く変色していたが、つやつやとしていた。多分、怒りに囚われてなかなか抜け出せなくて、何となく人の気持ちを重たくさせてしまうことも多い僕でも、小説も人も本当は許してくれるのだ。