黄緑色の茎や、濃い緑色の縮れた葉や、生成り色の平べったい丸いものが、うどんの上に載っていた。重たい陶器の器は、じんわりと温まっていた。
「いただきます」
 プラスチックの箸を僕に渡して、公夫さんはすぐにうどんを啜り始めた。急かされるような音がした。僕はそっと出汁を啜った。薄味で、かつお節が目立っていたけれど、後味には瑞々しい甘みが仄かにあって、すぐかつお節と触れて一緒に消えて、透明になった。
「おいしい」と素直に口に出して言った。公夫さんは食べることに集中したまま、一度小さく頷いた。僕も何も言うことを考えずに、食べることに集中した。
「おいしいか?」と店の男の人が傍に来て言ったので、もう一度「おいしい」と、彼の顔を見て言った。
「うどんって、何から出来てるか知ってる?」
 と彼は僕を見て言った。公夫さんは相変わらず食べていて聞いていなさそうだった。僕は首を横に振ってすぐ、うどんを音を立てて啜った。
「少しずつ慣れていってね」
 元生です、よろしく、と言って彼は右手を出して、僕は箸を置いてその手を握った。
 彼は、すっとあっさりとした感じに手を離した。
 元生さんは奥に戻っていって、僕は箸を持った。
 お腹に急かされるように、幾らでも吸い込まれるように、うどんを食べたり、飲んだりした。公夫さんは僕より少しだけ早く食べ終わった。これだけゆっくり食べる人は初めて見た、と思った。
「ごちそうさま」と公夫さんは奥に向かって言い、掘りごたつから脚を出して、靴の方に向き直り、靴を履き始めた。僕も少し遅れて同じ動作をした。
 奥からもう一度元生さんが出て来て、「昼すぎにまた来たら、餅を食べていきなよ」と僕に向かって言って、僕は分からないまま、黙って頷いた。
 店を出る時、公夫さんがもう一度ごちそうさま、と店の中でうどんの器を片付けようと腰を屈めた彼に向かって言い、ぼくも少し遅れて「ごちそうさま」と言った。
 彼は振り返らないまま、言葉にならない低く呻くような返事をした。