昨日眠った部屋に戻り、隅に置いてあった自分のトートバッグを持って、公夫さんについていった。部屋の奥の襖を開けて出て、その同じような部屋も越えて廊下に出て、右に曲がり、階段を登っていった。階段の途中で緩やかに九十度に右に曲がった。その部分だけ段が少し高くてきつかった。その、緩やかに曲がる所の左手の壁には、四角の小さな窓があって、昼の眩い光が入ってきていて、お腹のいっぱいさも、眠気もあって、少しうっとうしい気持ちになった。
 階段を登り切って左手に、木の横開きの戸があった。
「ここが君の部屋」と言って公夫さんは僕に中に入るよう、スペースを開けて、片手を広げて導くようにした。
 中に入った瞬間は、眩しくて部屋の中が見えなかった。奥と右と左の面は、一面の窓になっていて、左の窓の外には木々と建物の屋根が見えて、奥の面、右の面には、丘の頂上の草原と、その向こうの空と雲が見えた。
「ここで寝泊りしてもらうことになるから、部屋は自由に使っていいよ。欲しいものがあったら、話して下さい」
「父は、今どこですか?」
「君と同じように、この山にいるよ。お父さんにもちゃんと部屋があります」
 空を見ている視界の一番下に、四角い箱状のものが見え、それはガラスで出来た小屋のようなものらしく、草原に建っていた。そのガラスは透明で、小屋の中の、細く立ち昇る白い煙が、幾筋か見えた。
「少し休む?」
 僕は公夫さんを振り返ると同時に頷いていた。頷いたら、眠気がまた誘ってくるようになった。
「何かあったら隣の部屋の人に声掛けて僕を呼んでもらって。しばらくしたらまた来るから」
 僕の目はもうはっきりと開いていなかった。頷いて、公夫さんが部屋から出ていったら、部屋の端の布団の上に倒れて、目を瞑った。