林を抜けて、舗装された道の上を歩いていくと、左手に白い煙が上がっているのが見えた。その煙を見上げて、丘を登っていき、登り切る時には、煙を見下ろすようになっていた。
 山の麓にある、街の姿が見えた。高い建物はなく、ところどころに森のような緑の固まりがあった。見えている街の中央付近に、周りの建物の二倍くらいの高さのある鳥居があった。その鳥居の隣の、瓦葺きの建物の煙突から、太くて淡い煙が、空へ昇っていた。
 街の一番向こうには、緑で膨れている山々が、背景としてあった。自分の家や、近所の風景を探してみたけれど、その山の他は見当たらなかった。
 目の前には、ガラス張りの小屋があった。遠くから見えた小屋の中の煙は、もう見えなくなっていた。けれど、小屋の傍で、街の方へ向かっている白髪の男の人の背中の向こうに、小さく細かい煙が、弱々しく昇っていた。
 そのおじいさんの方へ、歩いて近付いていった。その弱々しい煙を見て、父の、家に座っている様子を、少し思い出した。銘柄は分からないけれど、ある一定の煙草の匂いが、父の匂いだった。
 おじいさんは、こちらに気付いていなかった。後ろから覗くと、左手に筆を、右手に煙草を持って、懐にあるキャンバスを見ているのが分かった。キャンバスには、街の望みが描かれていた。実際よりも濃い色調で、建物が蠢いているように見えた。真ん中の鳥居の存在感は大きく、実際よりも大きな割合で描かれていた。
 おじいさんは、絵の部分々々を点検するように、筆でその場所を塗るような仕草をしながら、見て回っていた。
 その動きが止まり、振り返るかと思い身構えたが、おじいさんは、街の中のある緑の前で筆を止めていて、しばらくしてその場所を塗った。平べったい筆の先は、緑色になっていた。
 何度も何度も点検しては、所々に緑を重ねていった。