11

 街の方を見ながら、時々立ち止まり、辺りを歩いてみたけれど、中々好きな所が見つからなかった。おじいさんは絵の前で、じっと座っていた。
 街の方を見るのをやめて、小屋に近付いていった。恐る恐るドアを開けて、煙の匂いを嗅いだ。何とか入れそうだと思い、中に入った。煙の膜を抜けて、その中に入ったようで、匂いはさらに強くなったけれど、すぐに慣れていった。白いベンチに座ると、ガラス越しに、遠くの山と街が少しだけ、視界に入った。
 足を少し動かすだけで、土と擦れる音が、反響して聞こえた。その音を聞くと、気持ちが落ち着いた。そうしていたら、睡魔がやってきた。この場所で描いてみようと思った。そう思いながら、そのままうとうとし、目を瞑っていた。
 後ろで二度、ガラスを叩く音がして、目を開いて振り返ったら、人懐っこい笑顔をした元生さんがいた。普通の表情に戻って、手招きした。
 小屋の外に出てみると、静かに思えた山も、ざわざわとして聞こえた。
「おいしかった?」と口を開いて一番に、元生さんは言った。頷くと、嬉しそうに、自然に少しだけ目を光らせた。
「公夫くんから伝言だけど、日が暮れる頃までに帰ってきてくれたらいい、とのことです。もうしばらくここにいるでしょ。出来たら、岡本さんも連れて帰ってきて」
 と言って元生さんは、おじいさんの方を見て、僕の顔を見た。
「放っておいたら、夜中までここいるからね」
 と小さい声で言い、じゃあ、と言って元生さんは、自分のお店の方へ歩いていった。