その人の向こう

自分に似ている人に初めて会った、という感想が一番にあった。
手と、歯と、声と、肌は、この人にかなり近い、と思った。
人から見ると自分はこんな感じか、とその人を見て、客観的に自分を見れたような気もした。


高知は、植物が荒々しく、南国のようだった。
淡路島のように、涼しげな雰囲気はなく、熱い感じだった。


農業の話をしている彼女は、尊敬できた。
タクシーの運転手の人と、ため池の話や、文旦の種類の話をしていた。


二日間とも、雨が降った。
近くの、海沿いの崖に建っている喫茶店『矢流』に、二日間とも行った。


人それぞれ見ている世界は全く違う、と、自分に似ている人の世界観に触れて、そのことが本当に分かった気がした。それはマイナスの意味としてではなく、目の前に、目の前にいるその人の向こうに、空が見えるような、解放的な気持ちとなって現われた。


時間は残酷、どうしてあなたは、そんな悲しい生き方を選んだんですか、あなたの傍に、ずっと僕がいた可能性もあったはずです、と思ったけれど、彼女は、そんな風に生きたいと思ってそうしているわけではなくて、仕方なく、そうなってしまった、ということを会話して思った。手は届かないけれど、話を聞くことは出来る。肯定できる所を、現実的な所を、耳を澄まして、見つける。


喫茶店の窓から、海と、切り立った崖と、緑が見えた。