小川国夫さんの『止島』より

――荒れはてていましたがね、あのころは毎日が輪郭鮮明じゃあありませんか。今は毎日がどんよりしています。灰か土埃をかぶっています。
――本当だ。それは本当ですね。
――以前のほうが澄んでいます。
――わかった、岩原さんは原始人なんだ。
――人間はみんな原始人じゃないですか。原始人と同じ病気にかかります。
――病気……。
――この病気は原始時代にはなかった、なんて言う人がいますが、そんなことがどうして解るんですか。今ある病気は原始時代にもあった、と僕は思うんです。
                                                        『潮境』



ここで是非触れておきたいのは、死者にあてて文章を書くことです。死者も読者であり得るでしょうか。言うまでもなく、あり得ます。
                                                    『未完の少年像』




止島

止島