小川国夫さんの『止島』より
――荒れはてていましたがね、あのころは毎日が輪郭鮮明じゃあありませんか。今は毎日がどんよりしています。灰か土埃をかぶっています。
――本当だ。それは本当ですね。
――以前のほうが澄んでいます。
――わかった、岩原さんは原始人なんだ。
――人間はみんな原始人じゃないですか。原始人と同じ病気にかかります。
――病気……。
――この病気は原始時代にはなかった、なんて言う人がいますが、そんなことがどうして解るんですか。今ある病気は原始時代にもあった、と僕は思うんです。
『潮境』
ここで是非触れておきたいのは、死者にあてて文章を書くことです。死者も読者であり得るでしょうか。言うまでもなく、あり得ます。
『未完の少年像』
- 作者: 小川国夫
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2008/05/30
- メディア: 単行本
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