間違える自由のないことについて

 間違えたい、間違えたい、と思いながら仕事をし、帰りに具体的に間違えたいことを想像しようとしたが、中々いいアイデアが浮かばない。間違えつつ、自分に損することがほとんどないこと、と(身勝手なことを)思うけれど、中々思いつかない。後は、人に迷惑をかけるしかない(!)。……それに、予定通り間違えたら、間違えてないじゃないか!

 だったら、小さなことを、一人で、誰にも邪魔されず、ゆっくりと、完璧にやりたい。完璧に鍵を鍵穴に差し込み、左に捻る事により、ドアを開錠することに成功し、入室すること。完璧にプルタブを引っ張り、押し戻すことにより、缶ビールの飲み口を開けることに成功し、飲むこと(酔っ払うこと)。

「量は減っても、質を守ることはできます」と、タクシーの中で、橋の手前の坂道を登る途中で、O先生は言った。レイモンド・カーヴァーは、多忙な生活の中で、短い小説を書くことの体験を書いていた。なんとか短い小説を最後まで書いた後は、楽しみの時間だった、というような内容を書いていた。推敲の時間が、楽しみだった。育児と仕事とコインランドリーと、アルコールの合間の。