ある芸人2

 その人は実際に生で見ると、テレビで見るより華奢で小さかった。出て来てしばらく、じっと黙って立っていた。名前を呼ぶ声や、かわいい、とか、愛してるよ、という声が起こっていた。2分くらいはそうやっていて、突然スイッチが入った。舞台に立ち続けている人の、柔らかく輝く雰囲気を出していた。役者のようにみえた。暗い感じは、全然なかった。ネタの合間の一回毎に拍手が起こって、照れ笑いをしていた。途中でお客と掛け合いもやっていて、大人だし、プロだと思った。ぬいぐるみを蹴りながら袖にはけていって、マラカスの一つを客席に投げていた。
 他の人も、全員面白かった。テレビで見るより、3倍くらい面白い気がした。全員、声が凄かった。力強い綺麗な声だった。会場の、笑いが起こっている空気に、頭がぐわんぐわんとなった。終わって外に出てからもずっと、ふらふらになっていた。
 ある国の、悪魔祓いの祈祷師のことを思い出した。悪魔がついたといわれる人の家に行き、その人の前で芸をする。芸をすることでその人を笑わせようとするし、その芸を見に、その人の家に多くの人も集まる。その人が笑うと、悪魔を祓うことが出来た、ということになる。
 あの人たちがやっていることは、そのようなことだ、と思った。自然にも癒されるかもしれないけれど、やっぱり人に癒されるのか、と思った。あの場所の方が、よっぽどパワースポットだと思った。