本当のこと

 お盆前は、母のいる病院の電話の調子が悪く、一週間以上、ちゃんと話せない期間が続いた。僕も仕事を言い訳に出ない日も多くなっていた。留守番電話も、聞かずに消してしまうことも多くなっていた。
 お盆休み中に、母について書く機会があって、母の不器用な愛情がはっきり見えて、母の痛みをずっと分からず、二十年も無視し続けてしまったこと気付いて、謝らないといけないと思った。感謝することもいっぱいあった。母が産んでくれないと、何も始まらなかった。それだけでも全てで、それ以上何も言うことがないくらいのことだ。僕が生まれてから母の心の調子は悪くなった。それくらいに、僕のことと父のことを思って、そんな風になってしまったのだ、ということが分かった。父にはこの20年、ときどき連絡をしていたみたいだった。離れてしまっても、関係も気持ちも、全くなくなってしまったわけではなかった。僕が母に会いに行ったことを父に話すと、元気やったか、年とってたか、など聞かれた。気持ちがないわけなんかなかった、そんな当たり前なことにも、僕はずっと気付けなかった。
 今週は母からの電話に毎日出た。仕事場ではちゃんと話せないので、外に出ていって話すようになった。母のいる病院の電話の調子もよくなり、母の声が聞き取りやすくなった。母の声が明るくなっていた。大変や、とは言うけど、その声は以前よりはっきりと明るくなっていた。僕が母のことを内心責め続けていたから、母の調子がずっと悪かったんだということが分かって、辛くなったけれど、今でも気付いて良かった、と思った。
 木曜日の電話で母は、まだはっきり分からへんけど、退院できるかもしれん、家の離れが空くみたいやから、と言っていた。
 今年はもう一度は会いに行く約束をしているから、涼しくなったら行きたい。できれば実家に行って、母の家族にも挨拶したい。照れを押しのけて、自分の気持ちをちゃんと伝えないといけない。