陶器

チケットを買おうと、並んでいると、後ろの女性から、「まだ券はもっていないんですか?」と聞かれた。「はい、まだです」というと、「これ使いませんか?」とプリントアウトした割引券が、彼女の手にあって、彼女は笑顔で、おしゃれなフレームのメガネをしていた。僕は、ありがとうございます、と言って、頭を下げて、受け取った。そのチケットを受け付けに出すと、確かにちょっと安くなった。後ろの人も買っていたので、僕はもう一度小さく頭を下げたが、彼女は気にしていないようでこちらを見ていなかった。
陶器を見に来たのは、何年ぶりだろう。五年ぶり、いや、もっと久しぶりだった。二階への階段を上がり、特別展であるルーシー・リー展の会場に入った。想像していたよりも人が多かった。最終日だからだろうと思う。入口付近は人だかりになっていたから、少し先から見始めた。釉薬の色とか、陶器の質感とかが、好きだった。これにはあの料理を入れたらおいしそうとか、このコーヒーカップがほしいとか、この黒色がいいとか、そんなことばかり思っていた。それはもう、単にフェチであるだけだった。上から見て、右から見て、左から見て、というリズムが途中から分かるようになった。他の人たちのリズムともあっているようだった。中には、陶芸を学んでいる学生、先生方もいるようで、この色を出すのは難しいとか、メモをしたりとかしていた。マーブルチョコレートのような色をしていたり、雲のような模様をしていたり、煙がのぼっていって雲を作るような形の花器があったりした。250点くらいあるらしかった。中には似たような作品もあったが、時期によって確かに作風は変化していった。溶岩釉のでこぼことした、斑になった、ダイナミックな感じが続いたり、手書きの線が描かれたものがつづいたり、ピンクの色を使った色んな形のものが続いたりした。展覧会の、最後の作品の前で、じっとそれを見たり、他のお客さんを時々みたりしている若いショートカットの女性がいた。一人で、何も言わずにそこにいたが、陶芸をやっている人だという気がした。